サイコロきっぷ餘部旅2022.10


9月某日。

JR西日本『サイコロきっぷ』にエントリーしてみた。

サイコロきっぷは、5千円支払って(WEB上で)サイコロを振り、行き先をランダムに決められるJRの企画モノ。
遠方の博多、尾道、倉敷、あわら温泉が出れば良し。
近場の白浜、東舞鶴だけ出ないで!

・・・と、サイコロ振ったら、『餘部』だった。
あまるべ?餘部って、どこだ??

メールを見て戸惑ってると、部下のシマウマ伍長が親切に教えてくれた。

城崎温泉のさらに先にある、山陰の海辺で静かなとこだよ。『餘部鉄橋』で有名だなー」

あ、そうなん。テッキョー。
ようわからんが、鉄橋とかオモロそうだし、いっぺん行ってみるかな。

「『城崎温泉駅』にも途中下車できるから、羊好大尉のダイスキなお風呂にも入れるんじゃないの?」
と、シマウマ伍長は付け加えた。
おー、そうなんや!城崎で温泉!いいねえ!!
餘部電車旅、ちょっと楽しみになってきたぜ!


10月某日、金曜日。
天気は良好。
朝9時38分発の特急『はまかぜ』に乗り込むため、大阪駅へ。

入線してくる車輌のカラーリングはウルトラマンみたい。

特急はまかぜの車内に乗り込み、1号車内後方に着席。
はまかぜ』は少し古い特急なので、スマホ用の電源もないし、席も狭い。
車掌さんとかの話を聞くと、今日の『はまかぜ』は満席らしい。
平日の山陰行きの特急列車なんて、もっとガランとしてると思ってたんやけどな?
そういや、この1本前の福知山経由の特急『コウノトリ』も満席だった。ヘンなの。

定刻に、大阪駅を発車する、はまかぜ
車内の様子を、物珍しさもあってキョロキョロ見ている。

明石駅で、空いてた私の隣席に、おじさんが座った。
エラい大荷物を膝下に抱え込んで、窮屈そうだ。棚に上げればいいのに。
しかも、横は、ふっくらした体格の羊好大尉ときた。
せめて、私が身を細くしていよう。(ギュッ)

姫路駅に到着して、しばらくしたら、車内の乗客が、ガヤガヤ立ち出した。
なにをしてるんだろ?
座席を回したり、荷物を動かしたり慌ただしい。

な、なに??車内パーティでも始まんの?

「『はまかぜ』は姫路で、進行方向が逆になるんですよ。我々も座席を回しましょうか?」
と、隣のオジサンが、礼儀正しく提案してくれた。
そ、そうだったんですね・・・知りませんでしたあ。

慌てて席を立ち上がると、オジサンが、素早く座席をガッチャンと回転させてくれた。
ありがとうございます!!

姫路駅から、播但線に沿って北上する、特急はまかぜ

車窓には、山々を抜けて、緑多きローカルな景色が過ぎゆく・・・はずだが、私の席は通路側。
景色はとても見えにくい。隣の席のオジサン越しに、山々を見るのもちょっとね・・・。
かといって、どの席も乗客でいっぱいなので、移動するわけにもいかず。
なんで、今日に限って、こんなにぎやかなの?

結局、隣のオジサンは、城崎温泉の手前の、豊岡駅まで、ずーっといっしょだった。
あんな大荷物持って下車ってことは、但馬空港にいくのかな。
お気をつけてー。

12時半ごろ。
3時間かけて、やっと到着した、城崎温泉駅

長い間座り過ぎて、ケツ痛い・・・。
次の餘部行きの電車は、14時過ぎなので、城崎温泉で1時間半は時間をつぶさなあかん。
どれ、昼メシ食うたろかな。

通りをぶらぶら歩いて、よき店を探してみる。
温泉街っぽい通りを、歩く。
美味しそうなお昼ゴハンのお店は、と。
うどん屋に、但馬牛の創作料理屋、海鮮料理屋に、居酒屋っぽいとこ、と。どれも美味そうだ。

おや、なにやら行列ができてる魚屋さんが。海鮮料理のランチか。いいですねー。
私も、なーらぼっと。
15分ほど並んで待って『海中苑』で、海鮮丼御膳をいただく。

海鮮丼には、ワサビ醤油をぶっかけて、モリモリ食う!
はーん、美味しいーー。

天ぷらもいただきましょう。
アジかな?魚の天ぷらがホクホクやん。
赤ミソ汁、そして、海鮮丼。天ぷら。ウマウマ!
すっかり満足して、店を出る。階段急やな。気をつけよう。

この後、城崎温泉の外湯で名の知れたとこに行きたかったが、時間もそんなにないので、駅からすぐにある、『さとの湯』へ。

13時開店すぐ、というのもあってか、ガラガラだった。
これはこれで、気楽でいいや。
あたま洗って、体中泡だらけにして。その後、ほぼ貸切状態の大浴場でアゴまで湯につかる。

アハー、昼から温泉♨️、とっても気持ちよかねーー。
電車3時間座りっぱの疲労も飛んでくなあ。(ウットリ)

アタマから湯気をホコホコさせ、さとの湯を出た。
駅前の土産店で抹茶ソフトを買って、ペロペロなめている。
のんびり時間が過ぎてゆく。

そろそろ、餘部行きの電車の時間だ。
2両編成の、山陰ローカル線に乗りこむ。

普段は、おそらくガラガラであろう山陰本線
今日は、サイコロきっぷ野郎や、サイコロガールズ、ピンゾロカップルなどで、古びた電車内はパンパン。
なるほど、さっきの特急電車の満席も、サイコロきっぷの乗客のせいなのか。
私もそうなんやけど。こりゃあ、帰りの電車も満員やで。

なんとか窓際に座れたが、ふっくらめの太羊なので、たいへんスペースをとっており、申し訳ない。
だからといって、別に席を譲ったりはしないが。

さっきの特急と違い、車窓から山陰線の自然多き景色を、存分に堪能する。
海岸沿いを、トンネルを、崖の上を、どえらいスピードで走る、山陰本線
ひらパーのジェットコースターに乗ってるような気もしてきた。
お願いだから、脱線事故だけはやめておくれ。

小1時間ほど、ガタガタ進んでたら、目的地の『餘部駅』に到着。

餘部駅は、山と山を架ける橋の上にあり、空中に建っていることから、空の駅と称されるところ。

ほとんどの乗客が、餘部駅でぞろぞろ降りる。
長いだけで、そんなに広くもない餘部駅のホーム上は、サイコロ客であふれかえっている。
人が多すぎて、少しずつしか、前に進めんで?なにこれ。

おそらく、この辺の村落人口を上回るであろう、サイコロ観光客たち。
山陰の静かな駅の周りを、スマホだカメラだを構えて、ガヤガヤと人の群れが移動する景色。
これじゃ、風情もなんも、ありゃしまへんなあ。

餘部鉄橋は、一部を残してとっくの昔に撤去されており、より強固なコンクリート橋梁をかけ直している。
旧線路も少しだけ残されている。

天空にそびえる餘部駅から、下界を見下ろしてみる。

山陰らしい、なーんもない海岸村。
駅の真下は、船も港もない。
寂れた趣きみたいなんがあるのかなあ。どうなんやろ。
どれ、下に降りてみようかしら。
『余部クリスタルタワー』という、全面ガラス張りの、名物エレベーターに乗ってみましょう。

間の悪いことに、ちょうど、観光バスが下に到着してたみたいで、サイコロ客の大群ともガッチンコ。
たくさんの人が昇り降りして、列をなしてる天空エレベーター。乗降するにも、ものすごい待たされる。
なんやねん、これー。

15分以上も待っただろうか。
やっと乗れたエレベーター内は、乗客でパンパン。こうなったら、ほとんど、満員電車やで。
なんで、山陰くんだりまできて、満員電車を再現せにゃならんのか。
ガラス壁面にガマガエルみたいに押し付けられつつ、やっと下に降りてきた。圧死するかと・・・。
こんなこったら、エレベーターなんぞ使わずに、ゆっくり遊歩道で歩いて下に向かえばよかった。
なにがクリスタルだ。

鉄橋跡下には公園があり、ポツリポツリと観光客が座ったりしている。
下から鉄橋跡や、コンクリ橋梁を見上げて写真撮る。

おーー。

少し歩くと、小さな道の駅があるので、お手洗いも兼ねて、のぞいてみた。
名産とか、ならでは物産とか、おもしろキーホルダーとかを期待してたが、しぶーい海産物しかない。
面白味はない。全然、ない。
すぐに、飽きて、道の駅を出る。

今のところ、餘部に着いてから、あんまりピッとくる場所は無いが・・・。
そ、そうだ!海がある。山陰の海!
漁港には、猫がいるはず。人懐っこい猫とふれ合い、猫っ可愛がりに可愛がって、写真撮って動画も撮って。

と、期待して海沿いを歩いてみたが、テトラポッドしかない。

そもそも、漁港がない。猫どころか、人っ子ひとりいない。
エヴァンゲリオンの心象風景なんか?ここ。

あるのは、所在なげに歩き回っている、サイコロ観光客だけ。海辺も、ひと回りしたら行くとこ無くなった。

とにかく、餘部には、鉄橋跡以外、なんにもない。
こんなところで、帰りの電車がくるまで1時間20分、ボッチで過ごさなきゃならんの?

公園で座ったり、アイスコーヒーを飲んでみたりとしていたが、何も無いところで時間を潰すのが、だんだん苦痛になってきた。
少し早いけど、空の駅に戻るか。
30分、餘部駅ホームでボケっと過ごす。

同じような思いのサイコロ客が、群れをなしてホームに座り込み、スマホをいじりながら無言で電車を待ってる。
まるで、難民キャンプみたいだ。

餘部には、喫茶店もない。メシ屋もない。
お土産売り場も、道の駅の小さいのだけ。
その寂れた感じが良いのかもしれないが、ワサワサ観光客がいると、その良さも消されてしまい。
どえらいとこを、サイコロきっぷの目的地にしおったな。

サイコロ乗客たちが、そこかしこで、同じようなことをブツクサ言い合っていた。
・・・帰りの電車は、まだですかーー?

16時21分。ようやく、帰りの電車に乗り込む。
乗降口は前方車両のみ開閉する、というローカル線にありがちな特殊なケースで、ホームで待ってた大勢の乗客を、大混乱状態に陥れる。
そのスキをついて、素早く電車に乗り込み、座席を確保。
こういうのも、ストレスやわー。
なんで、ローカル線に乗って、通勤電車みたいなことをしないといかんのか。やんなっちゃう。

餘部を用もないのにうろうろして疲れてたのか、城崎温泉駅まで、一度も起きずにグッスリ寝てしまった。

その間、山陰本線の山を越え谷を越え。

17時ころ、城崎温泉駅に戻ってきた。
帰りの大阪行きの特急『コウノトリ』は、18時52分発。
2時間弱あるので、ゆっくり城崎で温泉入って、晩メシを食いましょう!

夕方の城崎温泉街を、ぶらぶらする。
通りには浴衣にゲタをつっかけてそぞろ歩きしてる旅館客もおり、温泉町ならではの風情がある。

少し駅から歩いて、城崎温泉外の湯のひとつ、『御所の湯』にやってきた。
城崎温泉行くんやったら、『御所の湯』には入った方がええで!と、温泉マニア上司オススメの温泉だ。

夕方は湯客が大勢おり、更衣場は混雑してたが、中の露天風呂は、さすがに広々としており、ゆったりと温泉に浸れた。
アタマを洗い、顔を洗い、体中を泡まみれにし、洗って流して、また露天風呂へ。
フーい!疲労もストレスも抜けてくこの感じ!!
サイコーっす。
露天風呂ならではの、外気の冷んやり感とも相まって。
えーーのおーー。

御所の湯♨️で、餘部で疲れた身体をときほぐす。

たっぷり温泉を堪能し、ホコホコしながら城崎温泉街をのんびり散策。
お土産屋さんで、各所にお土産も買って。
食いもん店は、軒並み閉店しとる時間帯。
歩きながら食べるコロッケだの、揚げチクワだのは、お昼だけ営業やねんな。

こんなこったら、混雑&疲労餘部なんぞ行ってんと、昼過ぎから城崎温泉を湯めぐりしときゃーよかったかも。

晩めし食える店を探してウロウロしてみるが、夜の城崎温泉の通りは、そこまで栄えてなく。

唯一、駅前のうどん屋が営業してたので、入ってみる。
客なんて誰もいないので、店主がヒマそうにボケーっとTVを見ていた。

んーと、この但馬牛のスジ肉丼と、ハーフうどんのセットをくださいな。
生卵付きで。

「あいよー」
と、仕事にかかる、店主。
どうやら、ワンオペでやってるみたいだ。
平日の夜に客なんて来ないからかな。
私が入店した後から、3組くらいお客さんがやってきて、店主は1人でバタバタしていた。

本を読んで料理を待ってると、さっきまで、店主が見てたTVのサスペンスドラマが、つけっぱで流れとる。

「待ってよ!アンタの言い分だと、私のデータを信用していないってこと?」
「違います!レイコさんのデータを信用してるからこそです。新たな犯行の手口が浮かんだんです!」
「ははあん、そういうことね。それじゃま、いっちょチカラを貸しますかっ!」

・・・とかいう、チープな作りのサスペンスドラマのセリフのやり取りが、静かなうどん屋にえんえん流れてる。

サスペンスドラマと、うどん屋では、店の雰囲気とマッチしとらん。チャンネル変えたらいいのに。
ワンオペじゃ、それも無理か。
出てきたスジ肉丼と、サスペンスうどん(勝手に命名)はあっさり目で、意外と美味しかった。
やるやん。サスペンスうどん。

メシも食うたし、18時52分発の、特急『コウノトリ』に乗って、大阪に帰りましょ。
夜の車窓をぼんやり眺めながら、今回のサイコロ旅を振り返ってみる。
餘部は、今日は行かないほうが良かった。
人混み餘部はアカンで。

城崎温泉は、また来たいなあ。気軽に日帰りで温泉入ってもいいし、ちゃんと温泉旅館に泊まって、外湯めぐりとかもしてみたい。

そんなことを考えながら、車窓から夜景をぼんやり見ている。
行きと違い、帰りの特急『コウノトリ』は、席も適度に空いている。
ゆっくりノビノビしながら、夜の車窓を眺めつつ、ウォークマンで音楽を聴く。
車内も静かやし、座席転換もないし。
落ち着く時間。

2時間40分ほど、うとうとしたり、楽曲にのめり込んだり、考え事したりしながら。

夜のコウノトリは行く。
大阪駅に到着したのは、21時36分。

まる1日かけての、山陰への日帰り旅。
なかなかの強行軍だったかな、と感じながら、地下鉄へと降りて行くのでした。

【おしまい】